【文献抄読】脳卒中片麻痺例に対する麻痺肢の筋力トレーニング
日々、臨床を行なっていると麻痺側の筋力低下が著しい患者さんが多くいます。
麻痺側の筋力トレーニングはどんなふうにやって良いのだろうかと疑問を持っている方も多くいると思うので文献の紹介をしていきます。
引用文献詳細
文献:PTジャーナル・第52巻第6号・2018年6月 553-559p
著作者名:川端 悠士
要約
はじめに
麻痺側に対する筋力トレーニングは「脳卒中ガイドライン2015」でもグレードAと強く推奨され、以前は痙縮が悪化するからと重要視されていなかった筋力トレーニングへの重要性が再確認されてきています。
脳卒中片麻痺の筋力低下の特徴
本文献では、麻痺側の筋力低下の要因は
- α運動ニューロンの機能的な減少による運動単位の動員数の低下
- α運動ニューロンの発火頻度の減少
- 加齢等による筋繊維組織の変化
と語られている。
麻痺側の筋力低下の特徴としては
- 近位筋に比べ、遠位筋が優位に低下する。
- 筋力低下は麻痺側のみでなく、非麻痺側の筋力低下も合併している。非麻痺側下肢では、発症1週間で30%程度の筋力低下が生じるとの報告もある。
- 筋の収縮速度の低下により、瞬発的な筋出力が困難となる。
- 短縮域での筋力低下が著しいとされている。
脳卒中麻痺例における麻痺側下肢筋力と動作能力との関連
脳卒中片麻痺例における下肢筋力と運動能力の関連性は数多く報告されている。
ここでの重要な要素としては、脳卒中発症時の後遺症の中でも麻痺側の下肢筋力がもっとも動作との関連性が高いと述べられている。
脳卒中発症後には、感覚障害やバランス障害といった様々な後遺症の出現を伴うものも多いが、麻痺側の筋力低下は無視できないもとであると考えられる。
脳卒中片麻痺例における麻痺側下肢の筋力測定方法
筋力測定の方法は様々存在しているが、本文献では以下の4つが紹介されている。
- 等尺性筋力測定
- 等速性筋力測定
- 荷重位での筋力測定
- 機能的筋力測定
等尺性筋力測定
膝関節屈曲90°における等尺性膝関節伸展筋力で使用されるのが代表的。
等速性筋力測定
等速性筋力測定機器を用いて行われる。
荷重位での筋力測定
多機能型エルゴメーターを使用した膝伸展筋力測定や市販体重計を使用した座位での下肢か重力測定、立位においての麻痺側下肢への最大荷重率を測定した方法等が報告されている。
機械的筋力測定
立ち上がり動作のパフォーマンスや階段昇降のパフォーマンスを評価する方法が報告されている。
脳卒中片麻痺例における麻痺側下肢の筋力トレーニングの考え方
筋力強化の重要性が上記で述べられているが、麻痺側下肢の筋力強化が必ずしも動作の獲得に繋がっているとは限らないとも述べられている。
ここで、重要なのは、動作能力改善効果は『課題特異性』に関連性が高いとされていることです。
ただただ、ひたすらに筋力トレーニングをするのではなく、
起立着座練習やステップ運動のようか荷重刺激を伴い、目標動作に類似した筋活動を要する課題を反復することが重要とされている。
脳卒中片麻痺例における麻痺側下肢の筋力トレーニングの実際
起立着座練習
起立着座練習は臨床場面で多く利用されている課題特異性の筋力トレーニングである。
ここで注意したい点は、非麻痺側下肢の過剰使用である。
麻痺側の使用が困難であることから、非麻痺側下肢への荷重が優位になりやすい。
そこで、本文献では、
麻痺側下肢を後方へ位置させることでの荷重の促しや
非麻痺側下肢を前方のステップ台へ載せることでの非麻痺側下肢の抑制を促す方法が紹介されている。
段差を用いたステップ練習
麻痺側下肢をステップ台に挙上し昇降を行う課題と
非麻痺側下肢をステップ台に挙上する課題が有効と述べられています。
非麻痺側下肢をステップ台に挙上する課題では、麻痺側下肢の抗重力活動を促すことが目標となります。
歩行トレーニングによる筋力強化
PTやOTであれば、歩行で筋力トレーニングに繋がることは、
理解されている方が多いかと思いますが、
ここで重要なのは、
重度の運動麻痺を有する症例ほど歩行時の下肢筋活動が最大等尺性収縮中の筋活動よりも高かったと報告している
重度運動麻痺の症例ほど、リスク管理をしながら、歩行練習を取り入れることの重要性が示唆されています。
文献の感想
脳卒中の後遺症を考えたときに、麻痺側下肢の筋力が動作能力との関連性が一番強いとは、日々の臨床を考え直す良い機会になりました。
もっと治療の優先順位を考えなくては行けませんね。
ガイドラインへも記載されてる筋力トレーニングであるが、
臨床場面を見ると筋緊張の抑制に躍起となっている療法士や
マッサージ屋さんなのかと思うくらい、寝かせたままリハビリを行なっている療法士をよく目にします。
回復期リハ等では、在院日数を減らし、早期の在宅復帰を目指していくことが今後さらに求められていくことだと思います。今日の文献は早期退院に繋がるリハビリの考え方だったと思います。